先日、自宅の棚にストックしてあったドライマンゴーのパッケージが目に入りました。
これは、私がセブを訪れた際に、自分へのお土産としていつも購入しているものです。セブの主要なスーパーマーケットであれば、どこでも比較的手軽に入手できるのですが、このブランドのものを日本ではまだ見たことがありません。もちろん、私が知らないだけで、注意深く探せばどこかの輸入食料品店にはあるのかもしれません。
この商品のパッケージを眺めるたびに、私はいつも同じ点が気になってしまいます。商品名としてプリントされたカタカナ、「セブドライドマンゴス」の濁点が、日本語のそれではなく、英文で使われるダブルクォーテーションで表現されているのです。「セ"フ"ト"ライト"マンコ"ス」と。
おそらく、現地のデザイナーからすれば、ひらがなやカタカナの横に付く二つの点と、引用符との間に明確な違いを認識するのは難しいのでしょう。機能として同じ「二つの点を打つ」という行為に、異なる記号が割り当てられているという事実は、その言語の使用者でなければ意識の外にあるものです。
そんなことを考えながらドライマンゴーをつまんでいると、思考は自然とセブ島の、特にあの巨大なモールにあるスーパーマーケットの光景へと飛んでいきました。
セブのスーパーマーケット、日本とは異なる「日常」の風景
セブの主要なショッピングモールの入口には、大抵の場合、警備員が立っています。彼らは入店する客の荷物を簡単にチェックします。形骸化しているのか、あるいは時間帯によるのか、素通りできることもありますが、この「入口でのセキュリティチェック」という行為自体が、日本のそれとは大きく異なります。
フィリピンの食文化において、肉は欠かせない存在です。スーパーマーケットの精肉コーナーへ行くと、その販売方法の違いに気づかされます。日本では、様々な部位の肉があらかじめトレーに乗せられ、ラップでパック詰めされた状態で陳列棚に並んでいるのが一般的です。しかし、私が行ったスーパーでは、肉はパック詰めされておらず、トレーに塊のまま、あるいはカットされた状態で置かれています。客は欲しい部位をトングを使ってビニール袋に詰め、それを計量カウンターのスタッフに渡すのです。スタッフは重さを量り、値段のラベルを貼り付けてくれます。これは日本の個人経営の精肉店での対面販売に近い感覚かもしれません。
そして、商品購入後のフローにも、日本では見られない光景が広がっています。
レジで会計を済ませると、購入した商品を買い物袋に詰めてくれる専門のスタッフが控えています。彼らは手際よく商品を袋に詰め、最後にテープでレシートを袋に貼り付けます。
興味深いのはその先の構造です。レジエリア全体が柵のようなもので囲われており、出口は一箇所に集約されています。そして、その唯一の出口には、買い物客一人ひとりのレシートと袋の中身をチェックするためだけのスタッフが配置されているのです。この厳重な体制を見るに、残念ながら万引きが多いのだろうと察することができます。
さらに、他の店で購入した商品を持っている場合、スーパーの入口脇にある手荷物預かり所にそれらを預けるよう促されます。預けると番号の書かれた札を渡され、買い物が終わってから引き取る仕組みです。これも、店内の商品と客自身の持ち物が混同し、トラブルになるのを未然に防ぐための措置なのでしょう。
一つひとつの事象は些細なことかもしれません。しかし、これらは全て、その国の社会事情や文化に合わせて最適化された結果としての「日常の運用」なのだと感じます。
観光ではない「お試し移住」という滞在スタイル
先日の滞在は、期間としては1週間程度でした。しかし、その過ごし方は、いわゆる「観光」とは異なっていたように思います。空港からコンドミニアムへの往復を除けば、普段の移動はタクシーではなく、主にトライシクルを利用していました。食事もレストランに行くことはなく、スーパーで食材を買い込み、コンドミニアムのキッチンで調理することが多かったです。
これは、私にとって一種の「お試し移住」だったのかもしれません。将来的にこの地で生活することを考えた時、旅行者の視点ではなく、可能な限り生活者の視点で街を体験し、その空気感に慣れておくことは非常に重要だと考えています。キラキラしたリゾートの側面だけを見て移住を決めると、必ず現実とのギャップに苦しむことになるでしょう。
こうした経験は、計画の解像度を上げるために、今後も定期的に積んでおくべきだと感じています。
セブ移住とコンドミニアムの現実。理想と懸念点
ドライマンゴーの甘さが、セブのコンドミニアムでの生活の記憶を呼び覚まします。もし将来、本格的にセブで暮らすのであれば、住居はどのような形が良いのか。今回の滞在を経て、その輪郭が少しだけ具体的になりました。
少なくとも1ベッドルーム、経済的な目処が立つのであれば2ベッドルームのコンドミニアムを借りるか、あるいは購入するのが現実的な選択肢になりそうです。
セブのコンドミニアムの間取りは、大まかにスタジオタイプ(日本のワンルームに相当)、1ベッドルーム(1LDK)、2ベッドルーム(2LDK)に分類されます。
先月1週間過ごしたコンドミニアムはスタジオタイプでした。ドアを開けるとすぐにキッチンがあり、その横に4人掛けのダイニングテーブル、さらにその奥にベッドが置かれているという、コンパクトな空間です。
1週間の滞在であれば、仕事中はテーブルにノートパソコンを広げ、仕事が終われば片付ける、という運用で対応できます。しかし、これが永続的な住まいとなると、この毎日のセットアップと片付けは相当な手間になるでしょう。
自宅でリモートワークをする以上、やはり寝床と仕事のスペースは物理的に分けるべきです。そうでなければ、心身の切り替えがうまくいかなくなるのは目に見えています。1ベッドルームであれば、リビングの一角にワークスペースを設けることができますし、2ベッドルームであれば一部屋を完全に仕事部屋として独立させることが可能です。
ただ、当然ながら課題もあります。パートナー曰く、セブでは不動産の詐欺物件が少なくないようです。
実際に、いくつか悪質な手口を聞いています。例えば、内覧を希望しただけで「先に頭金を支払うように」と要求されるケース。また、内覧で気に入った部屋の契約を進めたところ、実際に割り当てられたのは同じアパートの、もっと狭い別の部屋だった、ということもあったそうです。荷物を運び入れたら、もう寝る場所も残されていなかった、と。
そして、こうした意図的な詐欺とは別に、物件そのものの物理的なコンディションを見極めることも、同様に重要です。
契約前には必ず物件を内覧し、電気、水道、インターネット環境といったライフラインの状態を自分の目で確認しておく必要があります。実際、前回私が借りたコンドミニアムは、シャワーからお湯が出ませんでした。幸い、セブの気候では水浴びでも大きな問題にはなりませんでしたが、これが常態化するのは避けたいところです。内覧時に隅々まで確認することの重要性を、身をもって体験した出来事でした。
海外リモートワークの機材を考える。デスクトップか、ノートPCか
コンドミニアムでの生活を考えると、思考は自然と仕事の環境、特にPC機材へと移ります。
日本でのリモートワークはデスクトップPCをメインに使っていますが、海外移住となると、これをそのまま持っていくのは現実的ではありません。輸送の問題だけでなく、現地のコンドミニアムの広さによっては、そもそも設置スペースを確保できない可能性もあります。そうなると必然的に、高性能なノートPCをメイン機として使うことになるでしょう。
IT系の仕事をしている海外移主者は、機動性を考慮してノートパソコンを駆使しているイメージがあります。しかし、私のように複数のモニターを使い、腰を据えて作業したい人間にとって、ノートPCの画面だけではどうしても作業効率が落ちてしまいます。
そのため、前回の滞在では、外部モニターやキーボード、マウスといった一式を日本から持ち込み、コンドミニアムにあったテーブルの上にそれらを設置して自室に近い環境に再現することで対応しました。
ドライマンゴーをつまみながら始まった他愛ない連想は、いつの間にか、移住という大きな目標を構成する、無数の現実的な課題を浮き彫りにしていました。
しかし、こうした具体的なシミュレーションこそが、漠然とした憧れを、達成可能な計画へと変えていくのだと信じています。今後も定期的にセブを訪れ、生活者としての経験を積み重ねていく。そうすることで、理想と現実の距離を測りながら、一歩ずつ進んでいきたいと考えています。