連日、暑さが続いています。部屋にいてもエアコンをつけなければ汗がにじみ、外に出ればアスファルトからの照り返しで眩暈がするようです。こういう日が続くと、ふとある食べ物のことを思い出します。/
フィリピンのデザート、「ハロハロ」です。
セブを訪れた際に食べた、あの雑多な甘さ。砕いた氷の上に、豆やゼリー、アイスクリームなどが遠慮なく乗せられた、いわばフィリピン版のかき氷。ただ体を冷やすだけでなく、糖分を流し込むような感覚が、この気だるい暑さの中ではかえって心地よく感じられるのです。
そのようなことを考えていると無性にハロハロが食べたくなりました。幸い、時折足を運ぶフィリピンレストランがあります。私は友人を誘い、その店へと向かうことにしました。
目的のレストランは、最寄駅から少し歩いたところにあります。先客は一人のみ。時間帯が中途半端だったせいか、店内は落ち着いています。
カウンター席に着き、まずはサンミゲルビールで乾杯。
暑い日のビールは、体に染み渡るようです。つまみとして、鉄板のスパイシーな豚肉炒め「シシグ」と、オーナーがすすめてくれた「ゴーヤチャンプルー」を頼みました。
この店の客層は、そのほとんどが米軍関係者かフィリピンの方々です。この日も、私たち以外に日本人客の姿はありませんでした。店内で飛び交うのは基本的に私がまだよく聞き取れない英語や、全く理解の及ばないタガログ語。HSP気質の私にとって、実はこうした環境は不思議と居心地が良いのです。
意味の分からない言葉は、ただの「音」として流れていきます。日本語のように、言葉の裏にある感情や意図を無意識に探ってしまうことがないため、余計な神経を使わずに済みます。コミュニケーションを全て断ちたいわけではありません。ただ、自分の心のペースを乱されることなく、目の前の友人やレストランのオーナーとの会話や食事に集中できるこの距離感が、私には必要なのです。
熱々の鉄板で提供されたシシグは、ピリ辛の味付けがビールと驚くほどよく合います。
食欲が刺激され、自然と箸が進みました。オーナーと、先月またセブを訪れた際の出来事を話したり、友人と今後の海外移住の計画についての話をしていると、ゴーヤチャンプルーが運ばれてきました。
運ばれてきたそれを見て、「なるほど、これはアドボだな」と直感的に思いました。オーナーが「沖縄のとは違うよ」と言っていた通り、見た目も味わいも、まさしくフィリピンの家庭料理「アドボ」そのものです。ゴーヤの苦味と豚肉の旨味が絶妙なバランスで、これもまたビールが欲しくなる一品でした。
食事をしながらの会話は、いつしかAIの話題に移っていました。私が個人的にプロンプト開発に取り組んでいることもあり、これは最近のホットなテーマです。途中からはオーナーも話の輪に加わり、それぞれの視点からAIがもたらす未来について語り合いました。こうした予想外の展開も、この店ならではの楽しみ方なのかもしれません。
一通り食べ終え、いよいよ本日の主目的であるハロハロを注文しました。意外にも、この店でハロハロを頼むのは初めてのことでした。一体どんな一杯が出てくるのか、期待が胸をよぎります。
運ばれてきたハロハロは、期待通りの見た目でした。
ただ、トッピングにコーンが乗っているのは少し珍しいかもしれません。
フィリピンではウベ(ダイジョという紫色の芋)が使われることが多いのですが、ここでは小豆がその役割を担っているようです。とはいえ、ハロハロは店や家庭ごとに中身が違うのが当たり前。その自由さこそが「ハロハロ」だと思うので特に気にはなりませんでした。
スプーンを差し込み、具材を混ぜ合わせていく。タガログ語で「混ぜこぜ」を意味するその名の通り、これがハロハロの作法です。
一通り混ぜ合わせ、溶けかかったアイスと氷、様々な食感の甘い具材を一緒に口へ運ぶ。ほどよい甘さが、体にじわりと染み込んでいく感覚。これでいい、これがいいのです。
十分に満足し、私たちは寄り道をすることもなく、まっすぐ帰路につきました。
今年の夏はことさらに暑くなりそうです。この甘い氷菓を求めて、また何度かこの店を訪れることになるだろう、とそんな予感がします。